ChatGPTなどの生成AIを社内で使い始める前に、利用ルールを決めておくと、安心して活用を広げられます。ルールがないまま使い始めると、社員ごとに判断がばらばらになり、思わぬところで情報が外に出てしまうおそれがあります。かといって、最初から細かく決めすぎると誰も使わなくなります。この記事では、守ってほしいことに絞った利用ルールの作り方を、順を追って紹介します。
ChatGPTを社内で使う前に決めておきたい利用ルールの作り方
平垣内 航Zacoo株式会社 代表取締役
CONTENTS 目次
01利用ルールが必要な理由
生成AIは、文章の下書きや要約、アイデア出しなど、幅広い業務で役に立ちます。一方で、使い方を誤ると、次のような問題が起こりえます。
- 顧客の情報や社外秘の資料を、そのまま入力してしまう
- AIが出力した誤った内容を、確認せずに社外へ出してしまう
- 会社として把握していないツールを、各自が使い始める
- 問題が起きたときに、誰に報告すればよいか分からない
どれも、社員に悪気があって起こるものではありません。「何をしてよくて、何をしてはいけないのか」が決まっていないことが原因です。ルールは社員を縛るためではなく、安心して使ってもらうためにあると考えましょう。
ルールがあると活用が進む
ルールが決まっていると、社員は「この範囲なら使ってよい」と判断できます。迷いが減るぶん、むしろ活用は進みます。禁止事項を並べるだけでなく、「こういう使い方はおすすめ」という例もあわせて示すと効果的です。
誰が作るかを決めておく
利用ルールは、情報システム、法務、人事など、複数の部署に関わります。ひとつの部署だけで作ると、現場の使い方に合わなかったり、確認すべき観点が抜けたりしがちです。とりまとめ役を1人決めたうえで、関係する部署の担当者に意見をもらいながら作ると、実際に守られるルールになります。最初の版は完璧でなくてかまいません。まずは数週間で形にし、使いながら直していく前提で進めましょう。
02ルール① 入力してはいけない情報を決める
最も大切なのは、入力してはいけない情報をはっきりさせることです。ツールの設定や契約内容によって、入力した情報の扱いは異なります。安全側に考えて、外に出てはいけない情報は入力しないことを基本にします。
具体的に挙げる
「機密情報は入力しない」だけでは、何が機密にあたるのか判断が分かれます。次のように、具体的に挙げておきます。
- 顧客や取引先の個人情報(氏名、連絡先、住所など)
- 社員の個人情報や人事に関する情報
- 契約書、見積書、取引条件などの社外に出せない資料
- 公開前の商品・サービスの情報
- パスワードやアクセス用の情報
迷ったときの考え方
挙げた項目にあてはまらなくても、判断に迷うことはあります。その場合は「社外の人に見せてよい情報か」を基準にし、迷ったら入力しないか、相談窓口に確認するようにします。固有名詞を伏せたり、数字をぼかしたりして使う方法も、あわせて伝えておくと便利です。
POINT 個人情報や契約に関わる扱いは、法令や取引先との契約によって求められることが変わります。ルールを決める際は、法務担当や専門家にも確認しておきましょう。
03ルール② 出力をそのまま使わない
生成AIが出力する文章には、誤りが含まれることがあります。もっともらしい文章で、事実と異なる内容や、存在しない情報が書かれていることもあります。
人が確認する流れを決める
社外に出す文章や、判断の材料にする情報は、必ず人が内容を確認してから使うことをルールにします。特に、次のような内容は注意が必要です。
- 数字、日付、固有名詞
- 法律、制度、規約に関する説明
- 他社や商品についての情報
- 引用や出典として示す内容
用途によって確認の重さを変える
すべての出力を同じように確認するのは大変です。用途に応じて、確認の重さを変えるのが現実的です。
| 用途 | 例 | 確認の目安 |
|---|---|---|
| 社内で使うたたき台 | 会議メモの要約、アイデア出し | 使う人が内容を確認する |
| 社外に出す文章 | メール、提案書、Web記事 | 担当者が事実関係まで確認する |
| 判断に関わる情報 | 契約、制度、数字を含む資料 | 担当者に加え、上長や専門部署が確認する |
権利にも気をつける
生成された文章や画像が、既存の作品と似てしまうこともあります。社外に公開するものは、他者の権利を侵害していないかにも注意します。扱いに迷う場合は、法務担当や専門家に確認するようにしましょう。
04ルール③ 使ってよいツールと範囲を決める
生成AIのツールは数多くあります。社員が各自でさまざまなツールを使い始めると、どこにどんな情報が入力されたのか、会社として把握できなくなります。
会社として使うツールを決める
業務で使ってよいツールを決めて、一覧にしておきます。ツールによって、入力した情報の扱いや管理の機能が異なるため、情報システムの担当者などと相談して選びます。個人のアカウントではなく、会社で管理するアカウントを使うようにすると、管理がしやすくなります。
使ってよい業務を示す
あわせて、どのような業務で使ってよいのかを示しておきます。
- おすすめの使い方:文章の下書き、要約、言い換え、アイデア出し、表現の確認
- 注意が必要な使い方:社外に出す文章、数字を含む資料の作成
- 使わない業務:人事評価や採否の判断など、人が責任を持って判断すべきもの
使わない業務を決めておくことも大切です。AIの出力をそのまま判断に使うと、理由を説明できない判断になってしまうおそれがあります。
05ルール④ 相談先と報告の流れを決める
使い方に迷ったときや、誤って情報を入力してしまったときに、すぐ相談できる窓口を決めておきます。
窓口はひとつにする
相談先が部署ごとに違うと、社員はどこに聞けばよいか迷います。窓口はひとつにして、社内の誰もが分かる場所に掲示しておきます。チャットツールに専用の場所を作るのも、気軽に相談できる方法です。
「やってしまった」を報告しやすくする
誤って入力してはいけない情報を入力してしまったときは、早めに報告してもらうことが大切です。報告した人を責める雰囲気があると、報告が遅れ、対応も遅れます。「気づいたらすぐ報告する」ことを、ルールの中ではっきり伝えておきましょう。
06ルールを周知し、定着させる
ルールを作っても、社員に伝わらなければ意味がありません。作ったあとの伝え方にも工夫が必要です。
1枚にまとめる
利用ルールは、長い文書にするよりも、1枚で見渡せる形にまとめるのがおすすめです。「入力しない情報」「出力の確認」「使ってよいツール」「相談先」の4つが一目で分かれば、日々の業務で思い出しやすくなります。
使い方の説明とセットにする
ルールの説明だけでなく、実際の使い方を体験できる場を設けると、理解が深まります。おすすめの指示文(プロンプト)の例や、うまく使えた事例を共有すると、「使ってみよう」と思うきっかけになります。
新しく入った人にも伝える
入社した人や異動してきた人にも、同じように伝わる仕組みを作っておきます。入社時の案内資料にルールを入れておくと、伝え漏れを防げます。
07使いながらルールを見直す
生成AIのツールは、機能や提供される条件が変わることがあります。社内の使い方も、慣れるにつれて広がっていきます。ルールは一度作って終わりではなく、定期的に見直しましょう。
見直しのタイミング
- ツールの機能や利用条件が変わったとき
- 新しいツールを使い始めるとき
- 相談窓口に同じような質問が続いたとき
- 半年に1回など、決めた時期
現場の声を集める
見直しの材料になるのは、実際に使っている社員の声です。「この業務でも使いたい」「このルールは分かりにくい」といった意見を集め、必要に応じてルールを足したり、表現を改めたりします。
Zacooでも、自社でAIツールを開発・運用する中で、使い方のルールを少しずつ整えてきました。最初から完璧を目指すよりも、守ってほしいことに絞って始め、使いながら育てていくほうが、結果として社内に定着しやすいと感じています。
08そのまま使える利用ルールのひな形
ここまでの内容を、社内向けの利用ルールとしてまとめた例を紹介します。自社の業務や使うツールに合わせて、言葉や項目を調整してお使いください。
生成AI利用ルール(例)
1. 目的 業務の効率化と品質の向上のために、会社が認めた生成AIツールを安全に使うことを目的とします。
2. 使ってよいツール 会社が認めたツールのみを、会社が管理するアカウントで使います。新しいツールを使いたいときは、事前に窓口へ相談します。
3. 入力してはいけない情報 次の情報は入力しません。
- 顧客・取引先・社員の個人情報
- 契約書、見積書、取引条件など社外に出せない資料
- 公開前の商品・サービスの情報
- パスワードやアクセス用の情報
判断に迷う情報は入力せず、窓口に確認します。
4. 出力の扱い 生成された内容には誤りが含まれることがあります。社外に出す文章や、判断の材料にする情報は、必ず人が内容を確認してから使います。数字・日付・固有名詞・制度に関する説明は、特に注意して確認します。
5. 使わない業務 人事評価や採否の判断など、人が責任を持って判断すべき業務には使いません。
6. 相談と報告 使い方の相談や、誤って入力してはいけない情報を入力したときの報告は、窓口(〇〇部・〇〇チャンネル)へ行います。気づいた時点で、すぐに報告してください。
7. 見直し このルールは、ツールの変更や利用状況に合わせて、定期的に見直します。
ひな形を使うときの注意
ひな形は、あくまで出発点です。業種や扱う情報によって、必要なルールは変わります。たとえば、個人情報を多く扱う業務がある場合は、入力しない情報をさらに具体的にしたり、確認の手順を厳しくしたりする必要があります。
また、ルールの内容が法令や取引先との契約に沿っているかは、法務担当や専門家に確認してから運用を始めるようにしましょう。
「やってよいこと」も書き添える
禁止事項だけを並べると、社員は「使わないほうが安全」と考えがちです。ルールとあわせて、「メールの下書き」「会議メモの要約」「資料の構成案づくり」など、おすすめの使い方を書き添えておくと、安心して使い始められます。
まとめ
ChatGPTなどの生成AIを社内で使う前に、次のルールを決めておきましょう。
- 入力してはいけない情報:具体的に挙げ、迷ったら入力しない
- 出力の確認:社外に出す前に、必ず人が確認する
- 使ってよいツールと範囲:会社として使うツールと業務を決める
- 相談先と報告の流れ:窓口をひとつにし、報告しやすくする
ルールは1枚にまとめて周知し、使いながら見直していくことが大切です。社内の生成AI活用や、利用ルールづくりの進め方にお悩みの方は、お気軽にご相談ください。


